京都地方裁判所 平成3年(行ウ)33号 判決 1995年10月27日
原告
グループ市民の眼
右代表者事務局長
折田泰宏
右訴訟代理人弁護士
安保嘉博
同
飯田昭
同
井上博隆
同
小笠原伸児
同
豊田幸宏
同
中村広明
同
野々山宏
同
森田雅之
同
山崎浩一
被告
京都府知事
荒巻禎一
右訴訟代理人弁護士
堀家嘉郎
同
前堀克彦
主文
一 被告が、原告に対し、平成二年八月二三日付けでした「平成元年度秘書課需要費のうち、外国賓客等渉外経費に係る支出票」の債権者名、代表者名、口座番号等、支出内容及び個人名の部分を非公開とした決定のうち、債権者名、代表者名、支出内容及び個人名を非公開とした部分を取り消す。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が、原告に対し、平成二年八月二三日付けでした、「平成元年度秘書課需要費のうち、外国賓客等渉外経費に係る支出票」(以下「本件公文書」という。)のうち、債権者名、代表者名、口座番号等、支出内容及び個人名(以下「本件情報」という。)を記載した部分を非公開とした決定(以下「本件処分」という。)を取り消す。
第二 事案の概要
一 請求の類型(訴訟物)
本件は、原告のした、京都府情報公開条例(昭和六三年四月一日京都府条例第一七号、以下「本件条例」という。)に基づく本件公文書の公開請求に対して、被告がその一部を非公開とした本件処分をしたので、その取消しを求める抗告訴訟である。
二 争いがない事実
1 当事者
(一) 原告は、京都府に事務所を有する法人格のない社団である。
(二) 被告は、京都府知事として、本件条例一条一項の実施機関である。
2 本件公文書に対する本件処分の存在と不服申立経由
(一) 原告は、平成二年八月九日、被告に対し、本件条例四条に基づき、「平成元年度総括調整室秘書課(当時企画管理部秘書課)所管にかかわる食糧費のうち、接待待遇にかかわる支出の年月日、金額、目的、支出先がわかる公文書」の公開を請求した。
(二) 被告は、対象公文書を本件公文書であると特定し、同年八月二三日、本件公文書のうち、本件情報の記載部分を非公開とし、その余の部分を公開とする本件処分を行い、原告に対し、その旨通知した。
(三) 原告は、本件処分を不服として、同年九月一〇日、被告に対し、異議申立てを行ったが、被告は、平成三年七月一一日、右異議申立てを棄却した。
三 争点
1 本件条例の非公開事由該当性の解釈基準
2 本件情報の本件条例五条六号該当性
3 本件情報の本件条例五条三号該当性
4 本件情報のうち個人名の本件条例五条一号該当性
四 争点等に関する当事者の主張
(被告)
1 本件処分の前提事実について
(一) 本件条例の非公開情報
本件条例五号には、「次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる」旨規定され、その一号に「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、個人が特定され得るもののうち、通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」、三号に、「法人(国、地方公共団体その他これらに類する団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の財産若しくは生活に対して重大な影響を及ぼす違法若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)」、六号前段に「府若しくは国等が行う審議、検討、調査研究その他の意思形成の過程における情報であって、公開することにより、当該若しくは同種の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるもの」、六号後段に、「府若しくは国等が行う取締り、監督、立入検査、試験、入札、交渉、渉外、争訟、許認可その他の事務事業に関する情報であって、公開することにより、当該若しくは同種の事務事業の目的が達成できなくなり、若しくはこれらの事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれのあるもの」と規定されている。
(二) 外国賓客等渉外経費の性格等
(1) 京都府総括調整室秘書課(以下「秘書課」という。)は、行政事務全般の円滑な執行を図るため、国内外の多数の関係者、関係諸団体(以下「関係者等」という。)と良好な関係を保持しつつ、種々の情報を収集し、右情報を基に調整を行う等の事務事業(以下「本件事務事業」という。)を行っている。
秘書課がこのような本件事務事業を遂行する上で関係者等を接待接遇する場合に必要な経費が、外国賓客等渉外経費である。
(2) 外国賓客等渉外経費は、秘書課所管の食料費として計上され、その支出は、秘書課が関係者等を接待接遇する場合に、一件ごとに、支出命令者より出納機関に対し支出命令を出すことによって処理されている。
(三) 本件公文書の性格
本件公文書は、秘書課が、関係者等を接待接遇する場合に必要とした外国賓客等渉外経費の支出命令を、一件ごとに経理した支出票であり、これらには、起票年月日、支出金額及び本件情報がそれぞれ記載されている(別表参照)。
2 争点1
公文書公開請求権は、本件条例によって創設された権利であり、本件条例五条各号に列挙された非公開事由は、立法者が公開しないことによって守られる利益について考慮した結果、定めたものであるから、非公開事由該当性の判断は、本件条例の規定の解釈適用によって判断されなければならず、憲法に基づく規範的解釈や合憲限定解釈の法理、明白性の原理が適用される余地はない。
3 争点2
本件情報を非公開としたのは、本件条例五条六号に該当するからである。
本件情報は、秘書課において、前記のとおり京都府行政の円滑な執行等を図ることを目的として関係者等から情報収集等の本件事務事業を行うために関係者等を接待接遇する場合に要した経費を支出するために作成されたものであり、本件条例五条六号の「渉外」事務に関する情報に当たる。
本件情報を公開することにより、接待接遇にかかる接待業者名、接待の趣旨、関係者等が明らかになり、その結果、関係者等や各種の関連する事務事業の重要度に応じ、その程度に違いがあること、すなわち京都府の評価・位置付けが明らかになり、関係者等に、京都府に対する不満、不快の念を抱かせることとなり、京都府と関係者等との良好な信頼関係等が損なわれ、場合によっては関係者等が秘書課の接待接遇に応じなくなるなど、「当該若しくは同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれ」がある。
さらに、本件事務事業は、性質上将来とも継続、反復してなされるものであり、京都府の評価等が知られることとなった場合、秘書課は、今後、合理的な判断に基づき適切な接待接遇ができなくなり、「同種の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれ」がある。
よって、本件情報は、本件条例五条六号に該当する。
4 争点3
本件情報を非公開としたのは、本件条例五条三号に該当するからである。
(一) 本件情報のうち、債権者名、代表者名及び口座番号等は、通常接客業者を示すものであり、支出内容及び個人名は、京都府と支出先業者間の取引内容等を示すものである。よって、本件情報は、接客業者にとって「事業に関する情報」に当たる。
接客業においては、その性質上、利用者、利用内容等を他に明かさないことが、接客業者の社会的な信用、評価を築き保持する上で非常に重大な要素となっており、いかなる者を顧客としているか、その顧客をどのような金額で接遇しているのかについては、接客業者のノウハウとして、通常個別具体的に公開されているものではない。したがって、本件情報を公開すると、利用者や利用内容を明らかにしたということで、当該接客業者の社会的信用、評価に影響を及ぼすことが予想される。また、本件情報を公開すると、本件事務事業の関係者等の詮索が、当該接客業者に対して行われることが予想され、このような行為の対象となること自体、当該接客業者にとっての信用や経済活動の自由を害するおそれがある。したがって、本件情報を公開すると、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。」
よって、本件情報は、本件条例五条三号に該当する。
(二) また、本件情報のうち、口座番号等については、当該接客業者が事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関するものとして「事業に関する情報」に当たり、公開することにより当該接客業者の取引関係が明らかになると、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。」
よって、本件情報は、本件条例五条三号に該当する。
(三) さらに、本件情報のうち、口座番号等については、金融機関にとっても顧客情報として「事業に関する情報」であり、これらを公表することは、当該金融機関の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。」。
よって、本件情報は、本件条例五条三号に該当する。
5 争点4
本件情報のうち、個人名を非公開としたのは、本件条例五条一号に該当するからである。
本件情報のうち、個人名は、「個人に関する情報であって、個人が特定され得るもの」に当たり、公開されることにより個人の生活や行動範囲が知られることとなる情報であるから、「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」として、本件条例五条一号に該当する。
(原告)
1 争点1
憲法二一条一項あるいは同法二五条、国民主権、参政権、住民自治の原理、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約は、「知る権利」を基本的人権として保障しており、本件条例は、右「知る権利」を具体化したものである。
したがって、本件条例の解釈にあたっては、「知る権利」の優越性に鑑みて、非公開事由該当性の判断は、必要最小限の制限にあたるかという観点から、可能な限り限定的に厳格に解釈しなければならない。
2 争点2
本件情報には、秘書課が関係者等を接待した接客業者名、接待の趣旨、関係者の氏名及び支出金額が示されているだけであり、出席者の意見や行政の対応策などは全く記載されていない。すなわち、折衝段階での言動、意見交換あるいは行政側の方針、対応策などは何ら明らかとはならないのであるから、本件情報は、「渉外」の事務事業情報に当たらない。
そして、被告は、交際の相手方である関係者等が識別され得るということについて、具体的に主張立証していない。また、本件事務事業について、協議・意見交換等の渉外事務というのみで、接待が関係者等との内密の協議を目的とするものか、公開することにより協議の目的や内容が了知され得るのかについて、具体的に主張立証していない。
さらには、本件情報を公開することにより、仮に関係者等が明らかになるとしても、京都府から接待接遇を受けることは名誉なことであるし、接待の差異について不満を抱くということは考えられないから、京都府と関係者等との信頼関係が破壊されるおそれはない。
したがって、本件情報を公開することにより、本件事務事業の目的が達成できなくなったり、公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあるものに当たらない。
3 争点3
本件情報には、秘書課が関係者等を接待した接客業者名、接待の趣旨、関係者の氏名及び支出金額(料理等の売上単価及び合計額)等が示されているだけであり、接客業者にとって、いずれも同業者との対抗上特に秘匿すべき情報が記載されているものではなく、「事業に関する情報」に当たらない。
また、接客業の場合、その利用者、利用内容を他に明かさないことが、その信用、評価を保持する上で重要であるとしても、右情報を当該接客業者が公開した場合と異なり、行政が公開した場合には、当該接客業者に対する信用毀損ということにはならない。さらには、接客業者にとって、京都府が接待に利用していることが明らかになったからといって、当該接客業者の社会的評価、信用が毀損するとはいえない。
したがって、本件情報を公開することにより、競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
4 争点4
被告は、本件情報には個人のどのような情報が含まれており、どのような個人が特定されているのか、なぜ通常他人に知られたくないのか、具体的に主張立証していない。
また、本件情報に係る接待は、京都府との府政に関わる公的な会合・交際であり、公金が支出されている以上公共の利害に直接関係するものとして、個人のプライバシーとして保護を受けるべきものであるとは言い難く、通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められない。
第三 争点の判断
一 事実認定
証拠によれば、以下の事実が認められる。
1 被告主張1(一)のとおり、本件条例五条各号には、公文書の非公開事由が規定されている。
(甲一)
2 被告主張1(二)のとおり、秘書課は、行政事務全般の円滑な執行を図るため、国内外の多数の関係者等と良好な関係を保持しつつ、種々の情報を収集し、審議、検討、意見交換等を行い、さらにこれらの情報を基に、関係者等との調整を行う本件事務事業を行っている。
秘書課がこのような本件事務事業を遂行する上で、関係者等に対する接待接遇を行う場合に、必要となった経費が外国賓客等渉外経費である。
(証人南北幸雄)
3 本件公文書には、秘書課が関係者等を接待接遇する場合に必要とした外国賓客等渉外経費の支出命令が、一件ごとに経理されており、これらには、起票年月日、支出金額及び本件情報がそれぞれ記載されている。
本件情報のうち、債権者名、代表者名及び口座番号等には、秘書課が関係者等を接待接遇した接客業者の氏名、代表者名、口座番号等が記載されている。
本件情報のうち、個人名には、当該接待を担当した府の職員の名前が記載されており、また、支出内容には、支出目的を表す同一内容の用語が記載されている。
(争いのない事実、甲二、証人南北幸雄、弁論の全趣旨)
4 京都府作成の情報公開条例の解釈運用基準(甲一、以下「基準」という。)によると、本件条例五条六号前段の趣旨は、府の行う事務事業の中には、審議、検討、調査研究を積み重ねながらその意思が形成されていくものがあり、このような審議等に係る検討資料は、それ自体が決裁又は閲覧の手続を終了したものであっても、最終的な府としての意思決定が得られていない情報であり、これら情報を公開すると、府民に無用の混乱や誤解を招いたり、一部の情報利用者に不当な利益を与えたり、行政内部の自由で十分な意見交換を行うことに著しい支障が生じるおそれがあるため、また、最終の意思形成に至った後においても、その過程における情報を公開することにより、将来の同種の事務事業の公正かつ適切な意思形成に同様の支障が生じる場合があるため、これらに係る情報について非公開とすることができると定めたものと解される。
(甲一)
5 基準によると、本件条例五条六号後段の趣旨は、府の行う事務事業の中には、その性質上、関係する情報を公開すると、当該又は同種の事務事業を実施しても、予想どおりの成果が得られず、実施する意味を喪失したり、特定の者に不当な利益を与えたり、経費の著しい増大や実施時期の大幅な遅延を招くなど、事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じる場合があるため、これらに係る情報について非公開とすることができると定めたものと解される。
(甲一)
6 基準によると、本件条例五条三号の趣旨は、法人等の営業の自由、公正な競争は十分に尊重、保障されなければならないため、技術又は販売上のノウハウ、法人等の内部事情、名誉、信用、社会的評価等、公開することにより法人等の競争上の地位その他正当な利益を明らかに害すると認められる情報が記録された公文書について、非公開とすることを定めたものと解される。
そして、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報とは、①生産技術又は販売上の情報、②経営方針、経理、人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報、③名誉、信用、社会的評価、社会的活動の自由等に関する情報等、公開することにより、法人等又は事業を営む個人の正当な利益を害すると認められる情報を意味するものと解される。
(甲一)
7 基準によると、本件条例五条一号の趣旨は、個人のプライバシーの保護に最大限の配慮をし、個人のプライバシーに関する情報が公開されてプライバシーが侵害されることのないよう、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報を非公開の対象とした上で、本件条例の目的に照らして、公開を請求する市民の権利を保障するという観点から、通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものが記録されている公文書について、非公開とすることを定めたものと解される。
(甲一)
二 争点1(本件条例の解釈基準)
1 一般に、民主主義社会において、国民が合理的な範囲で公的情報に接近することができるような制度を創設することは、国民の「知る権利」を実効あらしめるものであり、情報公開条例は、地方自治の場において、住民の地方公共団体に対する「知る権利」を具現化し制度化するものといえる。
しかしながら、「知る権利」が、憲法二一条等の派生原理として導かれるものであり、表現の自由と表裏一体のものとして尊重されるべきものであるとしても、それが、知ることを妨げられない自由権としての性格を有することは格別、そのほかに、積極的に公権力、行政機関に対して情報の開示を求めることまでできる権利であるとはいえず、明定する立法がなければ具体的な請求権が発生しないという意味で抽象的権利にとどまるものであると解するのが相当である。
そうすると、住民に公的な情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような要件の下で付与するかについては、いずれも当該地方公共団体における立法政策の問題であり、具体的な情報公開請求権の内容、範囲等を判断するにあたり、憲法二一条等の趣旨、目的等から解釈基準を導き出し、適用されるものではなく、各条例の規定の文理を解釈適用することによって判断すべきものである。
2 したがって、原告は、本件条例の非公開事由該当性の判断は、「知る権利」の優越性に鑑みて必要最小限の制限にあたるかという観点から可能な限り限定的に厳格に解釈しなければならない、と主張するが、本件条例の解釈にあたっては、憲法二一条等の趣旨、目的等から解釈基準が導き出されるものではないので、憲法に基づく規範的解釈や合憲限定解釈の法理、明白性の法理が適用される余地はなく、本件条例の規定の文理を解釈適用することによって判断すべきものである。
三 争点2(本件情報の本件条例五条六号該当性)
1 本件情報は、秘書課の関係者等に対する接待接遇に関するものであるが、このような接待接遇は、秘書課の本件事務事業のためになされたものであって、その内容いかんによっては、本件条例五条六号前段ないし同後段に該当する可能性があることは充分考えられる。
しかし、前記一3認定のとおり、本件情報のうち接待接遇に係る接客業者の氏名、代表者名、口座番号等は、いわば外形的事実に関するものであるし、本件情報のうち個人名は、当該接待接遇を担当した府の職員であって接待の相手方である関係者等の氏名は含まれていないし、支出内容は、支出目的を表す同一内容の用語が記載されているに過ぎない。
このような接待の外形的事実等に関する情報からは、通常、当該接待接遇の相手方である関係者等、当該接待接遇が行われた個別、具体的な目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものでなく、この情報が公開されることにより、直ちに、秘書課の当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は本件事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは言い難い。
2 もっとも、本件情報において、前示のように接待接遇に関する外形的事実しか記載されていなくても、一般人が入手し得る報道等からの他の関連情報と照合することにより、接待の相手方や接待の具体的目的、内容が了知される可能性があり、かつ、このような接待の中には、特定の事務事業のために必要な事項についての関係者等との内密の協議を目的として行われたものもあり得ると考えられる。そして、このような接待に関する本件情報を公開すると、接待の相手方である関係者等において、不快、不信の念を抱き、また、そこで話し合われた内容等につき様々な憶測等がされ得ることを危惧することも考えられ、その結果、以後情報の提供を拒否したり、率直な意見表明を控えたりすることも予想される。そうであるならば、このような情報を公開することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。
3 しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件情報に関しては新聞発表等を行ったものがないため、他の関連情報と照合することにより接待の相手方である関係者等が了知される可能性のないことが認められる。
また、被告は、当該接待が、特定の事務事業のために必要な事項についての関係者等との内密の協議を目的として行われたものであることについて、具体的に主張、立証するところがない。
4 よって、本件情報は、本件条例五条六号に該当しない。
四 争点3(本件情報の本件条例五条三号該当性)
1 前認定のとおり、本件情報は、秘書課の本件事務事業に係る接待接遇の支出票であるが、支払いを受ける接客業者の側からすると、秘書課が当該接客業者を接待に利用したことや利用内容等を示すものである。
前示一1、6のとおり、本件条例五条三号は、法人等の営業の自由、公正な競争を保護するため、技術又は営業上のノウハウ、法人等の内部事情、名誉、信用、社会的評価等、法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報を非公開と定めたものであるが、本件情報のうち、接客業者の氏名、代表者名、当該接待を担当した府の職員の氏名及び支出目的を表す同一内容の用語を記載した部分については、接客業者の技術又は営業上のノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、秘書課による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件情報の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
2 しかしながら、弁論の全趣旨により、本件情報のうち接客業者の口座番号等を記載した部分は、当該接客業者の経理等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報に当たると認められるから、右情報を公開することにより、当該接客業者の正当な利益を害するものと認められる。
3 よって、本件情報のうち、債権者名、代表者名、支出内容及び個人名は、本件条例五条三号に該当するとは認められないが、本件情報のうち、口座番号等は、本件条例五条三号に該当すると認められる。
五 争点4(本件情報のうち個人名の本件条例五条一号該当性)
前記一3のとおり、本件情報のうち、個人名は、秘書課の接待接遇を担当した府の職員の名前が記載されているものである。
とすると、右情報は、右職員が当該接待接遇を担当したことを明らかにするものであるが、右職員にとって、当該接待接遇は、秘書課の本件事務事業のためになされた公的なものであり、個人のプライバシーに関する情報として通常他人に知られたくないと望むことが社会通念上正当と認められる情報には当たらない。
よって、本件情報のうち個人名は本件条例五条一号に該当すると認められない。
第四 結論
以上の次第で、本件処分のうち本件情報中の口座番号等の記載部分を非公開とした部分は正当であるが、債権者名、代表者名、支出内容及び個人名の各記載部分を非公開とした部分は違法であり、取消を免れない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官松尾政行 裁判官中村隆次 裁判官池上尚子)
別表外国賓客等渉外経費支出内容等一覧表<省略>